今さらブログは流行らないよね
はてな近藤社長の「なぜ今、ブログなのか」を読んで。
僕が blog という言葉を意識したのは「mesh抜きでは日本におけるblog草創期を語れない」という一文だった気がする。このエントリは当時インターネットで日記を書いていたりした人たちを猛烈に怒らせ、ちょっとした騒動に発展した……という事件があったのだけど、今となってはもはやそういう騒動があったこと自体忘れられているのがすこしおもしろい。あの騒動のおかげでMovable Typeをはじめとしたブログツールが広く認知されて広がったというのは確かだろうけど、それでもその広がりを見ていたのは「一部の物好き」だったのだと思う。当時は個人でWebサイトを作るにはHTMLをテキストエディタで書いて、FTPクライアントでアップロードして……という作業が必要だったし、日記ツールやブログツールを使うためにはさらにその上でCGIを動かす知識が必要だった。ブログという存在は、そういう知識のある人たちにしか関心を持たれてていなかったのだと思う。
そのあとしばらくして、「ココログ」「livedoor Blog」「ヤプログ!」「アメーバブログ」のような、誰でも簡単にブログを持てるサービスが始まって、さらに芸能人や有名人(たとえば、ホリエモン)がそこでいろいろな発信をして、ようやくブログという存在が一般的なものになった。だいたい2005年か2006年くらいのことだと思う。
ここまで書いて思ったのだけどこの一連の流れにはてなダイアリーの出る幕があまりない。最初から「一部の物好き」が集まるサービスだった気がする。
当時のブログツールやブログサービスは、必ずといっていいほど「コメント」と「トラックバック」の機能があった。誰かが書いた記事に対してコミュニケーションをとりたいときに、ページに直接コメントとして書き込んだり、自分のブログに記事を書いてそれを通知することができた。ところが、有名人のブログならともかく、普通の人のブログにコメントがつくことは稀だった。トラックバックにいたってはスパマー用のインフラになりさがった。その当時、似たようなシステムが上手く動いていたのはmixiの日記機能だった。mixiの日記の読者はほとんどが自分の友人なので、日記の作者が自分のことを知らないということはあり得ないし、内輪だという安心感もあった。一方でブログ記事のコメント欄は全世界に公開されていて、知人のブログならともかく、見ず知らずの人の記事にコメントをつけるのはハードルが高かった。
「一部の物好き」の人たちにとってはウェブ上でこれまで全く接点のなかった知らない人へもむけて発信していくことはふつうのことで、その媒体としてブログツールなりブログサービスなりが便利だったのに対して、そうでない人たちにとってはやっぱりSNSのほうがよかった。ブログはやっぱり発信のためのツールであって、内輪でワイワイ使うのにはmixiが向いていた。ブログブームの勢いが落ちていったのはそこに一因があったのだと思う。
むかしはインターネットは家で画面とキーボードに向かって集中して使うものだった。ところがケータイでウェブを見るのが普通になってくると、それもまた変化していった。食卓とか、トイレとか、教室とか、いつでもどこでもウェブに繋がれるようになった。パソコンがないとインターネットが使えなかった時代は、その日のことをまとめて長文で書く日記というスタイルが最適だった。ところがケータイの時代が来ると、その時その場で見たものや感じたことをリアルタイムにウェブに書けるようになったし、多くの人にとってそのスタイルが気軽だった。中川翔子のブログがブログツール上でそういうスタイルをとった代表例だと思うし、Twitterの登場でよりそれが自然になった。Twitterは内輪のワイワイ感を演出するのにも向いていた。発言を見ているのはだいたいフォロワーだし、多くの人にとってそれはほぼイコール知り合いだからだ。フォロワーはいつでも一覧できるので、もし知らない人だったとしてもフォローし返せば知り合うきっかけになる。ブログに長文を綴るような物好きは、さらに「ごく一部の物好き」になっていった。
そういうことを考えていたら、はてなブログはやっぱり爆発的に流行るサービスとはとても思えなくなってきて、なぜ「今ブログなのか、しかもはてなダイアリーがあるのに」という点が疑問になってきた。ブログに長文を綴るという行為はどうしてもカジュアルさが低くて、やるぞと思ってやらないとできないことだし僕も何度も三日坊主にしている。はてなブログのテスターに応募するような人は結局「一部の物好き」だろうし、そういう人はすでに他に発表の場を持っていることが多いと思う。とりあえず触ってみたいというだけで、ちょっといじって放置する人も多いはずだ。今日までの僕みたいに。
はてなブログがこれから成功していくためには、「一部の物好き」をたくさん集めるか、そうでない普通の人たちに流行るような機能やデザインを取り込むかしかないのだと思う。Twitterやmixiボイスやfacebookのウォールはカジュアルすぎて、「ストック」にはなっていかないという近藤社長の思いには非常に共感するところがあるのだけど、まとまった量の写真や文書といったコンテンツを作るのが今でも大変な作業なのは確かだ。ただブログが書ける場所なのではなくて、「個」を表現できる場所になるような作り込みが必要なのだと思う。