いんたーねっと日記

141文字以上のものを書くところ

イチローの書いた作文として出回っている画像について調べた

ここ数日、Twitterやらfacebookでやたらと「イチローの小学生時代の作文」として1枚の画像が出回っていたのだけど、文字が不自然に揃っていて偽物なのではないか、という話題も出ていた。
facebookにリンクを貼るのもアレなので、有名そうなブログに掲載されているのにリンクを貼ります
そこで、ちょっと調べてみることにした。Googleイメージ検索は、画像から類似画像を探すことができるので、同じ画像を載せているサイトをすべて観て、そのページの作成日時などを調べていく。
多くはここ数日だったり、あるいは去年だったりしたのだけど、ひとつだけ2009年のブログ記事にたどり着いた。

階段の踊り場に
一枚の作文が貼り出してあったので
何気なく読みました

野球を一生懸命に頑張っている少年の作文でした

(中略)

有名人になると
小学生の時の作文まで全国区になるんだ・・・

そんなことを考えながら
写メ撮りました

http://mamakotomkm.blog40.fc2.com/blog-date-200912-1.html

そしてこの記事の最後に、例の画像が貼られていた。画像のExif情報を見ると2009年12月22日で、この記事が書かれたのが12月26日だったので、おそらくここに書かれている通り小学校の踊り場に貼られていたものを撮影したのだろう。

そもそもの初出

イチロー 作文」で検索すると、今回出回っている画像以外にもたくさんのページがヒットする。たとえば2004年に書かれたものとか、2006年に書かれたものとか。後者によると、この作文はイチロー物語という本に載っているらしい。
ところで、今挙げた2つの記事と今回出回っている記事の文を比較すると、細かいところの表記に差がある。句読点の有無や、「僕」「歳」などの漢字表記がそれぞれ微妙に異なっている。唯一出典が書かれている「イチロー物語」のものは「ぼく」「才」という表記をしている(もっとも、「イチロー物語」を僕は読んでいないし手元にもないので、本当にこの表記がされているのかわからないのだけど)。
検索をすすめるうちに、オリジナルの作文と思われる画像が掲載されているページも発見した。
http://dastagesbuchderheidi.up.seesaa.net/js/ichiro.jpg:image:w500
この画像について詳しいことは書かれていないが、「僕」や「歳」が「ぼく」や「才」だったものを読みやすく書きなおしたものが何らかのメディアに掲載されたのが広まっているのではないかと考えられる。わかりやすい美談として大人が読むために、そういう改変をした人がいたんじゃないかと思っている。

例の画像は

イチロー作文の画像として出回っている画像のフォントを、いくつかの有名な手書き風フォントと比較していくと、あくあフォントとそっくりなことに気づいた。そこで実際にあくあフォントを使って例の画像を再現してみた。
f:id:ymrl:20120128130635p:image
「の」の形状や「ラ」が右側にズレているあたりが特徴的だと思う。

イチロー作文とは何だったのか

ここまで調べたり試したりしたことをまとめると以下のようになる。

  • イチローの作文「僕の夢」はおそらく実在のものだが、表記などを書きなおした版が存在している
  • 数年前からイチローの作文はインターネット上に出回っている
  • 今回の画像は、あくあフォントを使って印刷したものが小学校の壁に貼られていたものを撮影したもの
  • 撮影者がブログに掲載した画像が、いつの間にか誰がいつどこで撮影してアップロードしたものだという情報が欠落した状態で転載が繰り返されている

いつ誰が作文のいかにも子供らしい表記を書き換えたりしたのか、ということだけはわからないのだけど、おそらく「いい話」として紹介するために、そういう形に改変したのだろうという気はしている。そして小学校の先生がそういうものを読んで生徒に紹介しようと思って階段の踊り場に掲示したのだろうというのは容易に想像できる。
インターネットにはとてもすべてをしっかりと味わえないほど大量のコンテンツが流通していて、その中で「いい話」があるとついつい「いいものを読んだ」気分になって「いいね!」を押すなりシェアするなりブクマするなりして素通りしてしまうのだけど、特にそういう「いい話」は出自がかなり怪しかったりすることが多い気がする。今回は本物っぽかったけれども、「感動できる」「泣ける」みたいなことを言われてるネット上のコンテンツは書籍から勝手に転載してるか多分に嘘を含んでるかだと思って読んだほうがよさそう。

2012/01/30 追記

@から、なにも言ってないのに「新編イチロー物語」が送られてきたので作文の掲載されているページを探した。62〜63ページにあった。引用の要件に入りそうなので、該当ページをスキャンした画像を掲載する
f:id:ymrl:20120130181020p:image
「新編イチロー物語」に掲載されている版では、TERRAZINEの記事には存在している改行はいっさいない。そして、最初にこの記事を書いたときに気づかなかったのだけどタイトルは「夢」として紹介されている(本物の原稿用紙と思われる画像では「夢」だが画像が出回っている版では「僕の夢」)。やはり、2004年のFPNの記事にある「僕の夢」はどこかで描き直された版であると思われる。
引用元が記載されていない情報について調べているので当たり前といえば当たり前なのだけど、この書きなおした版のオリジナルを探す方法がいまのところ見つからないのでそろそろイチローの作文探しをするのは限界にきている気がする。またなにかあれば追記しようと思う。
すこしずつ作文の細かい所が違ってきているので、


みたいなことはできないかと思ってはいるのだけど……

2012/01/31 追記

その雑誌とは、ベースボールアルバム No.119「イチロー 新打撃王誕生!」(ベースボール・マガジン社 1994)です。

http://airoplane.net/2012/01/30/ichiro-sakubun.html

どうやらこの雑誌に、例のイチロー作文の原稿用紙写真が掲載されているようです。上に掲載した原稿用紙の画像もこれと同じもののようですね。